ガラス職人だからこそ知っている、この美しさを届けたい《Sghr》
千葉県九十九里の工房を構えるガラスプロダクトメーカーSghr スガハラ。
暮らしに彩りを添える数々のアイテムの中でも、ひときわ個性ある美しいガラス作品を生み出し続け、「ガラスが生活の中心です」と語るSghrの職人・松浦 健司(まつうら けんじ)さん。
ガラスの魅力とこだわり、ご自身でデザインしたアイテムの制作秘話も交えて、Sghrの職人たちがものづくりにかける思いを伺います。
− Sghrの職人さんたちが共有している「Sghrらしさ」はありますか?
Sghrの職人は30人少々いますが、全員が共有している思いは「アートピースではなく、日常使いできるガラス製品を創ろう」ということ。それ以外は、各々の発想で自由に制作しています。
当社では毎月、職人やショップスタッフら社内有志が集まり「開発研究会」を行っています。
各々がプロトタイプやアイデアを持ち寄って年1回の新作発表会に向けて意見交換をし、お客様の声を取り入れ、みんなで新作を作り上げていく風土があります。
我々は市場調査をしません。トレンドやマーケットを追いかけても新しいものは生まれないと考えているからです。
それよりも「ガラス職人だからこそ気付くガラスの美しさ」を大切にした方が面白いものができる。そういった考え方もSghrらしさだと思います。
− 制作現場の雰囲気は?
他社さんだと生産ラインの都合上、製作できる時間の制約が多いそうですが、Sghrでは休憩時間や休日も自由にガラスを扱える環境が整っています。
ガラス好きな我々にとっては非常に楽しく、新作のアイデアを生むために重要なことです。
そんなありがたい環境が実現できているのは、24時間体制でガラス窯の番をしてくれる職人がいるから。彼らのおかげで僕たちは製作に集中できます。
現在販売しているのは4,000アイテムほど。販売休止になったものも合わせるともっと多いですが、これまでに使った型や成形道具は全てストックしてあるんです。
古い型を持ち出してきて吹いてみると「これはいい!」というものが見つかったり、これまで先輩方が培ってきたノウハウ全てが今なお生かされています。これはSghrの伝統、もはや「宝」ですね。
− 四角いフラワーベース「cubo」は開発に3年もかかったとか
とても難しかったです。吹きガラスは溶かしたガラスを膨らませて丸い形状を作るのが普通なので。
キューブの形状でガラスの厚みを均等にすることから最後の口元の加工まで、ずっと試行錯誤が続きました。
やっと作品が完成して、その後さらに難しかったのは安定して量産すること。
ガラスを溶かすときの温度管理が非常に難しく、うまくいかないとガラスに気泡が入ったり異物が溶けきれず残ったり。そうなると製品として出荷はできません。
− 松浦さんにとって、ガラスの魅力とは?
透明感、きらっとした輝き、やわらかい表情、エッジの効いたシルエット、様々なニュアンスがありますね。ガラスに光が差す瞬間や、テーブルに映る影や反射が美しかったり。
些細なことですが、暮らしの中で「美しさ」に気づく時間というのは豊かで穏やかなものだと思います。
使ってくださる方にとって、我々の製品を通じて気持ちが上を向いたり一瞬ほっとできたり、そんな瞬間があればとても嬉しく思います。
− 松浦さんご自身が、ものづくりにおいて大切にしていることは?
ガラスの魅力を多くの方に共有し、届けていきたい。「そのために何ができるか」ということに、常に挑戦しています。
− 「ユッコ 一輪挿し」も、その思いに近いですよね
ユッコは吊り下げタイプのフラワーベースなんですが、ガラスや水に射す「光の美しさ」をお届けしたかったんです。
水を入れて日の当たる場所にぶら下げると、プリズム効果で壁に虹が映る瞬間があって。
虹を見た時ってなぜかテンションが上がりませんか?日常の中にそういう「あっ」と心が動く瞬間があるといいな、と。
− 松浦さんは19歳頃からガラス職人を志していたそうですね
ものづくりはずっと好きでした。ガラスを始めたきっかけは、大学生の頃にガラス作家さんの教室に通い始めたこと。
ただ、芸術や自己表現としてのガラス作家を目指すつもりはなく、当時から日用品やプロダクトのほうに興味があったので、工場でのガラス製作を始めたわけです。
今でもガラスが生活の中心。ガラスに触れることがとにかく楽しくて、見た物全部がいつでも、なんでも、ガラスにつながっていきます。
− 他の職人さんの作品で「これはすごい!」と驚かれたものは?
一番悔しかったのは、うちの親方、ベテラン職人が考えた「泡シリーズ」。
気泡が立ち上がっているようなデザインのグラスなんですが、「そういけるのか!」と。自分では思いつかないデザインを目にすると、悔しくて仕方ないですね。
もうひとつ悔しかったのは、「富士山グラス」。
これは外部のデザイナーさん(鈴木 啓太氏)の作品ですが、ビールを注ぐとグラス全体が雪をかぶった富士山のようで、価格は富士山の標高にちなんで3776円。コンセプトの作り方が上手で、この視点はさすがだなと。
− 同じビアグラスの「likka」「nido」はご自身のデザインですね
likka(立香・リッカ)は、ビールの香りを楽しめるグラス。香りを感じるのに最適な、ワイングラスのように膨らんだ形状になっています。
表面の特徴的な加工は、見た目のキラキラ感だけではなく、指紋や汚れが目立たないので使い勝手の面での効果もあります。
nido(ニド)は、瓶ビールをグラスに注いでちょうど2杯分くらいのサイズ感。黒ビールのためにデザインしたグラスです。
黒ビールは、少しぬるくなってからも香りが立って美味しいので、細くなっている部分をグッと握って、温度を上げながら飲める形状にしました。
1杯目を飲んでいる間に温度も上がってくるので、2杯目はまた違うおいしさを楽しめます。
− 海外と比較して、日本のガラス製品ならでは特徴や強みはありますか?
海外のガラス製品も品質は高いですよ!Sghrが日本で製作し続ける一番の意味は「使い手から近い場所にいる」という点だと思います。
お客様がガラスの制作現場を訪れ、職人と話すことができる。「こういう場所で、こういう人が、こういうものを作っているんだ」ということに触れてもらえる、しっかりとお伝えできる、ということに大きな意味がある。
これからもお客様と近い距離で新しい製品を作り続けていきたいと思っています。
工房見学(コロナ禍の影響で、現在は休止中)は、よかったら真夏に来てみてください。窯の熱さを体感いただけると思います(笑)。
ものづくりにかける純粋な情熱を、ガラスに負けないくらい輝いた表情で語ってくださった松浦さん。毎日の暮らしに添えるガラスへの思いの強さを改めて感じました。
その自由な発想と熟練の技術で、次はどんなアイテムが生まれるのか楽しみです。ありがとうございました!
PROFILE | Sghr スガハラ
菅原工芸硝子株式会社が展開するハンドメイドグラスウェアブランド。
暮らしを彩り、暮らしに寄りそうSghrの製品は、日々、工房で継承され革新されていく技術と、想像と好奇心を核にした開発力によって生み出されています。
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