キリンの研究者も驚いた、アミメキリンの再現度《flerco note》
flerco note 発売直後のある日、アミメキリンの再現度に関する投稿がSNSで話題になりました。
「かなり再現度高い…!」と投稿してくださったキリン学者・郡司先生に取材をお願いし、キリンを取り巻く状況や問題などをお聞きしました。
―物心ついた頃からキリンがお好きだったそうですが、好きになったきっかけは覚えていますか?
まったく覚えていないんです(笑)。1~3歳頃の写真を見るとキリンのぬいぐるみを持っていたり、キリンの絵を描いたりしていたので、その頃から既に特別な存在だったようです。
シルエットや模様の一部を見ただけでもキリンとわかる、アイデンティティの高さに魅力を感じます。
Photo by Megu Gunji
―大好きなキリンに携わる仕事、その中でも解剖学を選んだきっかけを教えてください
大学時代に将来の仕事について考えたとき、一般的な企業で働いている自分の姿がうまくイメージできませんでした。
この先何十年と働くなら自分にとって楽しいことを仕事にしたいと考え、子どもの頃からずっと好きなキリンに関わる仕事がしたいと思ったのがきっかけです。
そこから、野生動物の研究をされている先生など色々な方に相談しました。中でも動物園で亡くなった動物の献体を引き受けて研究している解剖学の先生との出会いに大きな影響をうけました。「キリンの解剖をする機会があったら声をかけるよ」と言っていただいたんですが、その時は社交辞令だろうと思っていました。
でも数ヶ月後には本当にキリンの解剖に誘っていただき、そこから今に至ります。
Photo by Megu Gunji
―初めての解剖は、怖くありませんでしたか?
flerco noteにも通じるんですが、「触れる」というのは体験としてものすごく得難いものだと思います。私はその時はじめてキリンに触ったので、怖いというより、感動的でした。基本的に野生動物に触れるのはNGなので、亡くなっているとはいえ手触りを感じることができ、今までイメージでしかなかった「重さ」や「サイズ」などの輪郭がはっきりした瞬間でした。
本物のキリンはflerco noteに比べるともう少し毛足が長く、毛も硬くてゴワゴワしています。ただ、そのゴワゴワした感じの再現度が高いと感じました。紙を加工してキリンらしさを出そうとすると、こういう方向性になるんだろうなと思います。
―キリンのあの柄は毛を刈っても残っているんですか?
あの柄が皮膚についているわけではないです。ただ、柄の輪郭部分を囲うように血管が通っているので、うっすら透けた血管が模様のように見える場合はあります。実はあの模様というのは一個体ずつ違っていて、模様をもとに野生キリンの個体を認識し成長を記録、年齢などを推定している研究者の方々もいます。
―キリンの寿命はどのくらいでしょうか?
飼育下だと20~25歳くらいで、30歳まで生きると大往生ですね。野生だと15~20歳がほとんどだそうです。
―キリンの最大の特徴といえば「長い首」ですが、どうして長くなったのですか?
キリンの首は平均で1.5~2mと言われ、身長がオスで5m、メスで4mなので体の約半分が首です。長くなった理由は諸説あり、高いところの葉を食べられることが生存に有利だったという説が現在は最有力視されています。
他にも、首が長いほどネッキング(メスを巡った争いや優劣を決める際にオス同士が首をぶつけ合う闘争行動)に有利なると言われていて、強い=首が長い個体が生き残ったという説も有力です。
このようにキリンのアイデンティティとも言える首ですが、実は骨の数は人間と同じく7つなんです。ただ、キリンの骨がひとつ25~30cmに対して、人間は2cm程度とその差は12~15倍ありますが。
Photo by Megu Gunji
―郡司先生の研究で、首の可動域を広げるため8つ目の骨が作用していることがわかりました。他にも進化・発達した部分はありますか?
キリンのように首が長かったり、ゾウみたいに頭が大きかったりする動物は、うなじの部分に、人間のアキレス腱によく似た「じん帯」と呼ばれる組織が発達することが知られています。キリンは首から上が150~200kgもの重さになるんですが、それを、筋肉だけでなく、ゴムみたいに伸び縮みするじん帯を使って支えています。
―キリンを取り巻く現状について教えてください。
野生のキリンはアフリカ、サハラ砂漠より南側に生息していますが開発により生息地が減り、現在IUCN(国際自然保護連合)の「絶滅危急種(絶滅の危険性が高い)」に指定されています。さらに、亜種の一つマサイキリンは2019年に「絶滅危惧種」にリストアップされました。
―「亜種」とは何ですか?
生き物は、同じ種であっても、分布する地域によって見た目が異なることがあります。地域間で異なる特徴をもつ集団と認められると、「亜種」と呼ばれます。キリンの場合、9〜11くらいの亜種が存在すると言われています。マサイキリンは、タンザニアやケニアに生息する、模様が特徴的なグループですね。
現在、IUCNでは、「キリン」は1種として登録されています。ただし、2016年に行われた大規模なDNA調査の結果、遺伝的な観点から1種ではなくアミメキリン、マサイキリン、キタキリン、ミナミキリンの4つの種に分類できるのではないかという説が提唱されました。もし、今後IUCNがキリンを4種と認定した場合、マサイキリン以外にもレッドリストに入るグループが出てくるかもしれません。
余談ですが、長らく1種だと思われていたため、北米の動物園等では血がミックスされたキリンがほとんどです。その北米からの輸入が多い日本のキリンも同様です。
そのため、近年の日本の動物園では、「アミメキリン」「マサイキリン」といった名前ではなく「キリン」と表記している所が多いんです。
―日本にいる私たちにも何かできることはありますか?
1番はキリンが絶滅に瀕していることを知ってもらうことです。誰もが知っている動物がそういった状況にあることを多くの人が知ることがスタートだと思います。
直接的には保護活動をされているNGOやNPOに寄付をしたり、動物園に支援をしたりするのも手だと思います。最近だとYouTubeに動画をあげている動物園もあるので、動画を見るだけでも力になると思います。
Photo by Megu Gunji
幼い頃からキリンを愛し続けてきた郡司先生にも、忘れられない「触れる」瞬間があったんですね。
日本の動物園では「キリン」と表記されている理由など、一途に学び続けてきた方ならではのお話、とても勉強になりました。ありがとうございました!
PROFILE | 郡司 芽久
東洋大学 生命科学部生命科学科 助教。
大学院修士課程・博士課程にてキリンの研究を行い、27歳でキリン博士となる。著書に「キリン解剖記」(ナツメ社サイエンス)。
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